閑話休題 エイミー・マーチの意地

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キャラ崩壊、動画の魅力を損なうかもしれないので、いや!と、思ったら即ブラウザバッグを。

まずは動画を見てくれ!

エイミーとデーズィ

2回戦ウェインディとの試合前。デーズィはホテルの自室であるエグゼクティブルームでくつろいでいた。傍らにはナット、それと兄のデミがいた。ナットのバイオリンを聞いていると気持ちがとても落ち着く。闘いの最中には激しい音楽を奏でてくれ、闘争心を奮い立たせてくれる。家族やプラムフィールドの仲間たちの声援よりも心強かった。

「素敵よ。ナットの演奏、大好きだわ」

そう言って、デーズィはナットの傍らに座り直し、頭を肩に乗せた。
読書中の兄デミがちらっとこちらを見やった。「大好き」という言葉に反応したのだろう。
兄のデミはもちろん私がナットを好きなことを知っている。が、兄の手前「ナット、大好き」とは言わなかった。2人きりの時はよく言っているのだが…。

コン、ガチャ!

ノック音が一回聞こえたと思ったら、すぐに扉が開いた。それにしても無礼な開け方だ。
叔母のエイミーだった。ローレンスおじさんと結婚して、経済的には非常に裕福な暮らしをしている。母も若い頃はお金もちとの結婚を望んだ時期があったようだが、誠実で真面目、自分を心から愛してくれる父と結婚した。一方、エイミー叔母さんは小さい頃からの夢を実現していた。

裕福な人との結婚。
エイミーはナットを一瞥し、挨拶もせず、すぐにデーズィに視線を移した。
ナットが流れ者であったこと、経済的に困窮してきたこと、文字を読み書きできなかったことが気に入らないのだろうと、デーズィは思っていた。

「デーズィ、ちょっと」

エイミーは有無を言わせない口調で言い放った。話があるので、一階のカフェに来てほしいとのことだ。ナットとの交際についてあれこれ言われるのだろう…と予想していた。

カフェのソファーに座り注文を終えると、エイミーはジャラジャラと何かを取り出した。

「エイミー叔母さん、これは…?」
忍者がよく使う暗器が並んでいる。手裏剣、ヌンチャク、クナイ、鳥の子、まきびし…メリケンサックまである。

「エイミーお姉さんと呼びなさい!デーズィ。ウェンディは強敵よ。『私のあしながおじさん』のヒロイン、私がライバル視していたジュディすら寄せ付けなかったのだから!ジュディが負けるとは思わなかったわ…。それだけじゃない!ウェンディは本戦に出るために、『南の虹のルーシー』のケイトにも勝利している!それも、えげつなく残虐な技でね。ウェンディのファイトスタイルはとにかくエグい。あなたもきれいごとは言っていられないわ」

『エグいて…叔母さんがそれを言うの?』

心の中でつぶやくだけにした。忍としての闘い方を…多少教えてくれたのは叔母のエイミーだった。くノ一の技というのもあるそうだけど…まだ自分には早すぎると言っていた。エイミー叔母さんはローリーおじさんと結婚できたのは、くノ一としての技倆のお陰だと言っていた…おそらく、恋愛テクニックなんだろうけど、私には興味がなかった。

それよりも、

「エイミーおば…姐さん、せっかくだけどこんな武器は必要ないわ」

一回戦、若かりし頃の叔母ジョオとの闘いでは、爆薬を使用した。プラムフィールドでは尊敬する叔母であり教師である人だ。心苦しい勝ち方だったが、勝つことを優先しエイミーのアドバイスに従った。しかし、今の気持ちは全く違っていた。

エイミーは自分のアドバイスを全く聞いていないかのような返答に怒りを覚えた。

「私は…この白旗と素手で闘いたい。暗器使用や勝利への執念を否定するわけじゃないんだけど、性に合わないんです」

「デーズィ、あなたは…私の話を聞いていなかったの!?」

デーズィがプラムフィールドでは抜群の格闘センスを身につけていることを見抜いたのは、ジョーだった。喧嘩百戦錬磨のダン、わんぱくなトミーよりも上であると。ナンを中心に「闘いごっこ」が行われ、その中で抜きん出ていたのがデーズィであった。エイミーはデーズィの才能を開花させられればと思い、忍の技を教授した。と言っても、エイミーは気まぐれなので集中して教えることはせず、技をいくつか教えたのみだった。

デーズィは親愛なるエイミー叔母様から教授された技を磨き、独自に研鑽していった。

「聞いていました。エイミー叔母さん」

「だから、お姉さんと…」

新しい師匠

「実は、今回のトーナメントに私の新しい師匠が絡みたがっていまして」

「新しい…師匠?」

デーズィは突如指笛を鳴らした。澄んだ音がカフェに、ホテルのロビーにも響き渡った。レディとしては無作法であるが、忍の者が指笛を使うとは…一体何が?

「エイミーさん、お久しぶりです」

いつの間に!?振り返ると、そこにはプラムフィールドで農作業、家畜番をしているサイラスの姿があった。

「驚かさないでよ…サイラス…。で、新しい師匠ってのは誰なの?デーズィ?」

「だから、サイラスのことよ」

!!

「サイラスが…?彼は下働きじゃないの?それが師匠ってどういうことよ?バットの握り方もわからなかったくせに…!」

「叔母さんがサイラスのことをどう思っているかわかりませんが…少なくともサイラスの実力は、叔母さん、あなたよりも遥かに上です」

姪っ子から放たれた容赦のない言葉。エイミーはうなだれた。
スパーリングでは、まだまだ叔母に及ぶべくもない腕前だった。そんな未熟な姪にここまで言われるのは我慢がならない。

「エイミーさん。実戦練習では、デーズィを圧倒したつもりかもしれませんが、本当は違うのです。プライドの高いエイミーさんをやり込めたら、ショックで立ち直れないと思って手加減されていたのでしょう…。お優しい人です。メグさんにそっくりだ」

エイミーはうなだれたまま何も答えなかった。

デーズィはサイラスがいかに素晴らしいかを語った。
ある日、プラムフィールドのみんなでサイラスが南北戦争に従軍した頃の話を聞いたことがある。ナン、デミ、ナット、ダン、ネッド、ジャック、スタッフィたちがいた。

プラムフィールドの仲間たちは、サイラスの従軍した時の話が大好きだった。騎兵としても歩兵としても立派な兵士だった。愛馬を看取った話はみんなが涙した。

「銃剣が折れ、矢弾が尽きてからが本当の闘いですじゃ」

と、よく言っていた。

「じゃあ、素手でも南軍の兵士と闘った事があるの?」

トミーが興味津々で聞いた。

「ありますよ。銃剣を持った南軍の兵士10人に取り囲まれたこともある。その時、わしは馬を失っていたし、丸腰でした」

素手で南軍の兵士10人を倒したという話だった。デーズィもトミーたちも、サイラスの武勇伝にすっかり夢中になっていた。

「嘘だね。銃剣を持った兵士に素手で勝てるわけがないだろう。俺だって、子供にナイフを突きつけられた時は戦わずに逃げたよ」

喧嘩慣れしているダンは、そんな事あるわけないがないとすぐに否定した。

「そうじゃのう…刃物を持った相手だったら、そうするのが正しい。普通の人間であればな」

「普通の人間?じゃあ、これはどうかな、サイラス?」

ダンは言うやいないや、サイラスに飛びかかった。もちろん本気ではなく戯れだ。サイラスの襟首を掴んだと思われたが…その時すでにダンは宙を舞っていた。一瞬何が起こったのかわからず、ダンはキョトンとした顔をしていた。続けて、ナン、トミーたちが飛びかかったが、みんな投げ飛ばされてしまった。

「ねえ、サイラス、戦場では鉄砲の玉に当たったことはないの?」

投げ飛ばされたデーズィは彼に聞いた。

「ありますじゃ」

そう言うと、サイラスはシャツを脱いで上半身裸になった。

「!!!」

その姿を見た全員が絶句した。弾痕、刀傷、火傷のあとが全身にあったのだ。

「す、すげえ…一騎当千とはまさにサイラスのことだ…。敵の兵士を10人…いや、一人で100人を倒したと言われても、今なら信じることができる」

ジャックは思わずつぶやいた。ネッド、スタッフィなどはあまりの迫力に腰を抜かしていた。

絶望

その時、ホテルのロビーで怒鳴り声が聞こえた。
ホテルのガードマンとみすぼらしい男が揉めている。

「フォッフォッ…おあつらえ向きに、他作品の悪役がやってきたようです」

サイラスはツカツカとガードマンと男のところへ近づいていった。

「サイラス…一体何を!?」

エイミーも慌てて立ち上がった。

男は仲裁に入ったサイラスを怒鳴りつけた後、猛然と殴りかかった。サイラスはすべての拳をゆうゆうと躱している。一発も当たらないので業を煮やしたのか、暴漢はサイラスに組み付いた。

「捕まえたぜ!じじい!」

サイラスはすぐに右の腕で男の頭を捉えた。小脇に抱えて首を締め上げようとしている。男はもがいているが、ガッチリとロックされているので微動だにしない。フロントチョークで締め上げる気だ。

「お主はハンスじゃな?ならば…スリーパーだけじゃ済まさない」

言い終わる前に、ハンスの脳天はホテルの大理石の床に突き刺さっていた。情け容赦のないDDT。

「ぐぅ…」

意識はあるようだ。

「フォッフォッ…なかなかの石頭じゃのう。どうじゃ?景色が歪んで見えるじゃろ?」

ハンスだって決して弱い訳では無い。それをいとも簡単に…。エイミーはサイラスの強さを初めて目の当たりにし戦慄した。

「ささ、デーズィ、部屋に戻っておやすみなさい。しっかり体を休めるのも大事なことじゃからな」

「ちょっと待ちなさい、デーズィ。話はまだ終わっていないわよ!」

「ええ、サイラス。ナットのバイオリンを聴きながらお昼寝でもしてくる」

「ナットとまだ付き合っているようね・・・」

「明日は朝8時からトレーニングじゃ。ロビーで待っておる」

「なんで、さっきから私を無視しているのよ!」

エイミーはサイラスの襟首を掴み、ゆすぶろうとしたが、サイラスは全く動かない。
襟首を握りしめるエイミーの手にそっと手をそえ…親指の関節を軽く極めた。エイミーは苦痛に顔を歪めた。

「エイミーさん。この大会は…もはや貴方様の出る幕ではないということです。あなたは、絵の才能がないと気づき、絵描きの道を諦めローリーさんと結婚された。格闘技においても…諦めが必要ですぞ」

「エイミー叔母さん…いや、お姐さん。この1,2年で私達とあなたとの差はどうしようも無いほど広がってしまったのです。忍術を教えてくれたことは一生感謝致します。でも、くノ一の技は結構です。必要ないです。ナットはすでに私のものです」

「ううぅぅ…若草物語のキューピット、一番の美人、一番の絵描き、人気ナンバーワンキャラと言われていたころが懐かしいわっ…!!」

『若草物語一番の美人?キューピット?叔母さん、そんな事言われていたのかしら?一番は私のお母様のメグだと思うけど…』

自分の弱さに打ちひしがれその場で泣き崩れる叔母エイミーを一瞥し、デーズィはナットと兄デミの待つ部屋へ戻っていった。

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