閑話休題 破壊神アンネット

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アンネットに世界名作劇場最大トーナメントのオファーが来たのは、2022年12月だった。

「今年の年越しは、ちょっと大変かもしれないな」

アンネットたちは困窮気味であった。
世界名作劇場は放送終了後も根強い人気を誇っているものの、作品によりけりだ。人気のある作品、人気のあるキャラクターは公式のカレンダー、文房具、食器、キーホルダー、日用雑貨となり、ファンに親しまれている。

また、放送当時及び終了後、人気作とまでは言えない作品であっても、発信力発想力のあるファンがSNSや動画サイトなどで、二次創作、MAD動画などを作成し、盛り上がりを見せている。

キャラクターそのものの経済力(セーラはお金持ち)、大日本アニメ(以下大アニ)の広報宣伝やファンの人気によって、キャラクターたちの生活が成り立っている。仮にそれほど知名度のない作品であっても、作中お金持ちの家であれば生活に不自由はしない。

伝えたい真実

しかし、アンネットは違っていた。
高原地帯で生活は決して豊かと言えず、学校に通いながらの働き詰めであった。
公式のグッズはほとんどなく、年に一回のカレンダー販売でもひと月を飾ることもなく、集合写真ですら端折られる年が続いていた。ゲームのコラボなんてとんでもなく贅沢な話だ。作中の生活基盤が脆弱な上に大アニからの安定収入がないため、困窮するのも無理はない。

生活そのものは、アンネットより遥かに貧しい「フランダースの犬」のネロであったが、カレンダー、グッズ販売などの定期的な安定収入に加え、パチスロ、新作ゲームとのコラボなどで、経済的に潤っているどころか、富豪とも言ってよい状態だった。

「ホラーゲームとのコラボで炎上していたようだけど、私にとっては羨ましい限りだ。私を使ってくれたら、もっと盛り上がると思うのに。ゾンビ役でも良いくらいよ」

アンネットは何度悔しそうに呟いたことか。

2021年、「七人目のミイラ」という動画主さんが、名劇ヒロインランキングで私を3位にしてくれた。お陰で知名度が多少あがり、出演料の10ポンドは一家にとって大きな臨時収入であった。

参照動画:https://youtu.be/Vq1UXLV_Sjc?t=918

2022年9月、アンネットが主役の動画が一本公開され、出演料として30ポンドの収入を得たが、作物の不作により物価の高騰がとどまることを知らず、家畜にやる飼料も高騰し、今までのように十分な飼料を与えられず、乳の出も悪くなった。自分たちが口にする穀物、野菜も難しく、肉やケーキなどもってのほかの状態であり、とてもクリスマスを過ごすどころではなかった。

11月中旬には30ポンドも使い切り、いよいよ困窮し始めた。

その当時、『大アニ』からお呼びがかかった。翌々年のキャラクター集合カレンダーの打ち合わせのためだ。アンネットは小躍りした!これで、クリスマスを過ごせる!家族に辛い思いをさせることはない。もちろん、旅費と宿泊費は『大アニ』持ちだったが、アンネットは旅費を節約し、ホテルも都内にあるドミトリールームのある安宿に宿泊した。

打ち合わせの結果、翌々年にアンネットが登場する話は流れた。
やはり、人気作、人気のあるキャラクターが中心となってカレンダーが構成される例年通りの展開に、アンネットは失望した。『ロミ空、セーラ、若草物語、洗い熊、犬、トム…今回はフローネすら入っているのに…』

おそろしい出来事

会合が終わったその日の夜、世界名作劇場キャラへの慰労会が、『帝国ホテル東京』で行われた。セーラ、ロミオ、ジョオ、ピーターパン、セディ、アン、ペリーヌ、トムソーヤ、アン、ジュディ…みんなが輝いて見えた。当時は視聴率が振るわなかったカトリですら、輝かしく見えたし、本編では大変な貧困を味わったネロは…その面影はまったくない。頬には赤みが差し、まるで別人のようにふっくらとしていた。

それに、人気作品については主人公だけでなく、準レギュラーキャラまで招かれていた。ロミオの青い空のアルフレド、若草物語の若草四姉妹、赤毛のアンのダイアナ、トムソーヤの冒険のハックなどだ。私は、ルシエン一人連れてこれないのにだ!しかも、中には自分の家畜まで連れてきている者もいる。犬やアライグマだ(あ、これはいいのか)。

ホールには、たくさんの料理が並び、バイキング形式の立食パーティーだった。
アンネットは、久しぶりに口にする肉料理に舌鼓をうった。

「これをお父さんやダニ―、ルシエンにも食べさせてあげたい」

意地汚いしマナー違反だが、その一心で、持ち込んだタッパーにこっそりと料理を詰め込んだ。他の作品の人物と話をしたが、話の内容は覚えていない。ファンの二次創作がどうの、100均がどうのと言った話をしていたようだが。

「あなた、どちらからいらしたの?」

豚のスペアリブを頬張っていた時に、ブロンドの女が話しかけてきた。華々しいドレスに、ど派手な羽根付き帽子をのせた、頬にそばかすをぶっちらかした…まあまあ美しいが、高慢ちきな女だった。

私は、彼女の質問に答えようと思って、頬張っていた肉を飲み込もうと口をもぐもぐしていただけなのに、

「田舎者って、食べ方も意地汚いのね…」

と言って、答える間も与えずに去っていった。

侮辱されただけだった。

「美味しいから食べているんじゃない!生きるために食べているんだ!」

頭に来たので言い返そうと思ったが、何も言い返さずにいた。ここは帝国ホテル東京。喧嘩なんてもってのほかだ。こんなこと言ったら、余計に情けなくなる。

確か、ラザニアだかザビニアだったかそんな名前だった。あとで、ルーシーに聞いてみたら「小公女セーラ」の悪役で主人公のセーラを徹底的に虐めていた女子生徒らしい。なんで、あんな人間がパーティーに招かれたのだ?人気作だと悪役ですら招待されるらしい。

『同じ大アニ作品なのに、なぜこうも格差があるのか?』
慰労会終了後、ホテルのドミトリールームで1人悶々としていたが、明日の午前大アニ本社に行き、もう少しオファーがもらえないかとお願いに行くことにした。明日夕方の便に乗ればいいから、午前中は時間がある。

勇気ある告白

翌日、アンネットは本社ビルの受付を訪ねた。

「もしもし、あ、企画部ですか?『アンネット』さんという方がお見えになっているのですが…はい、はい…はい」

受付嬢が言うには、アポイントのない面会は受け付けられないとのことだった。アポ無し訪問なので、それはわかるが、かつては人気を誇った作品『アルプス物語わたしのアンネット』の主人公である。いくらなんでも、ここまで邪険に扱われる筋合いはない。が、怒りをぐっと抑えてアンネットは訪ねた。

「あの…アンネットが来たと…もう一度上の方に言ってもらえませんか?」

受付嬢は渋々企画部主任に訪ねた。

「はい、ええ…そうですか。企画部の主任もご存知ない方なんですか?」

アンネットは驚いた。企画部ですら私の名前を知らない。が、ここで諦めて帰るわけにはいかない。国にはお腹をすかせた弟、村の皆が待っているのだ。

「申し訳ございません…あいにく…」

「よぉ!アンネットちゃんじゃないの!」

背後から陽気な男の声が聞こえた。
薄い茶色のサングラスに、茶色と黄色の格子模様の入った上下のスーツ、青いYシャツを着込み、ピンクのネクタイをつけている。むちゃくちゃの配色だ。堅気というのには無理がある服装だ。

「常務!お疲れ様です!お知り合いでしたか…!」

受付嬢が驚いた様子で、常務とアンネットに、交互に視線を移している。

「『アルプス物語わたしのアンネット』のアンネットちゃんじゃないか!最近の若いのは知らんのかい?」

「た、大変失礼しました!アンネット様!」

受付嬢は深々と頭を下げた。

「じゃ、アンネットちゃん、とりあえず僕の部屋に行こうか」

常務の部屋には、調度品が数多く並べられており、ソファーもテーブルも全て高級品と思しきものだった。常務でこれほどの待遇なのだから、社長は一体どんな部屋なのだろうか?

「で、話ってなんだい?」

アンネットは話した…ここ数年、カレンダーの月を自分が飾っていないこと、『アルプス物語わたしのアンネット』のキャラクターグッズが、ほとんど発売されていないので、新作を出してほしい、Seri◯での100均グッズの発売もお願いした。また、SNSや動画でも『アルプス物語わたしのアンネット』の二次創作が振るわず、ファンの熱が冷めているのでは…という愚痴までこぼした。

常務はタバコの煙をくゆらせながら、ソファーにふんぞり返り、大きなため息をついた。

「二次創作の方は置いといて…。うーん、私の一存でなんとかならないこともないけど、他部署との打ち合わせを経ての結果だからねぇ…今更変更はできないのよ」

「そこをなんとか…せめて、Seri◯じゃなくても、『Can✕Do』とかで良いので、文房具や釣具とのコラボだけでも…最近、モノも値上がって、生活が厳しいんです」

かつてのヒロインが貧困を訴えた。勇気ある告白。アンネットは頭を下げた。自分の国では頭を下げる習慣など無い。日本ではこれが習わしなので、それに合わせた。

「ははは、おじぎか。よく覚えているね、アンネットちゃん。でもねぇ。コラボ製品は協力会社との絡みもあるから、そうおいそれと決まらないのよね」

アンネットがうなだれていると、背後でノックの音がした。

「常務、着替えが終わりました❤」

アンネットが振り返ると、そこには金髪の美少女カトリがいた。いつもの野良作業の服装ではない。きれいだけど…派手すぎるドレスを着ていた。

「お!カトリちゃん!もうちょっと待っててね!すぐ終わるから」

「え?ちょっ…アンネット!来てたの!?」

派手な姿を見られて、随分気まずそうなカトリだった。すぐに退出しようとした。

「あ、カトリちゃん、今ジャーマネ―呼んだから、一緒に下のサテンでラーコーでもかっ飛ばしてて♪」

ジャーマネ?ラーコー?
バブルの頃からの言葉遣いが全く変わっていない。

「カトリちゃん、これから撮影なんだ。ファンの要望があって奇抜な衣装だけど」

「わ…私だってあれくらいできます!だからっ…」

ニヤニヤと笑いながら、首を左右に振る常務。

「ま、そういう話はまた今度するとして…もう、僕も出なきゃ行けないんだ。そうそう、うちのビルの前に、美味しい牛丼屋があるから、そこでお昼でも食べてきなよ」

アンネットは1000円札を2枚押し付けられた。「じゃ」と言って常務は去っていった。
アンネットの目からは涙がこぼれていた…。

これが…現実!人気作品とそうでない作品との差!

1000円札を叩きつけたい気持ちであったが…これを使わずに故郷に持って変えれば、数日分の食費にはなるだろう。牛丼屋などには入らず、宿泊しているホテルに帰っていった。

常務と企画部主任はオフィスの窓から、アンネットを見下ろしていた。

「常務、すみません…名作劇場の登場人物とは知らなくて」

「まあ、気にすんな。今どきの若え奴らは知らなくて当然だ。つーか、金にならないんだよね。アンネットじゃ…」

アンネットは、公共バスで空港へ向かっていた。途中、多くの高級車に追い越された。トム、セーラ、若草四姉妹…多くの名劇キャラ達が高級車に乗って空港へ向かっているようだった。

『そう言えば、皆同じホテルに泊まっていたものね。だから、皆一緒なのかな?私だけ、サクラホステル浅草に宿泊していたから』

真っ黒のベンツがバスを追い越した。常務の愛車だ。助手席にはカトリが座っていた。

また、涙が込み上げてきた。

立ち上がれアンネット

おみやげと言ったら、慰労会で失敬してきた食べ物と2,000円のみ。アンネットは故郷に到着した。

「クリスマスも年越しも、ケーキどころか小麦粉のパンも難しいかもしれない」

アンネットが帰国した11月の終わり頃、父はこう漏らした。
アンネットはその程度の困窮には、耐えられる。

パンはなくてもポレンタがある。ポレンタを水に浸して食べればお腹いっぱいになる。
しかし、可愛い弟にはそんなひもじい思いはさせたくない。貧しいのはうちだけではない。自分と同じ生活水準の家庭はどこも似たりよったりであった。以前、ルシエンの家にお邪魔した時も、おやつに出てきたのは、ポレンタが数切れだけだった。

『アルプス物語 わたしのアンネット』の村が崩壊しつつある。

なんとかならないものかと、悩んでいたある日のこと、立派なスーツを来た男がアンネットの家を訪ねてきた。その男には見覚えがあった。以前、アンネットの動画をオファーしてきたミーラ財閥の人間だった。

依頼内容はこうだった。

  • 世界名作劇場の人気キャラを集めて、ソウルキャリバーとコラボして、格闘技トーナメントを行う。
  • 大アニ公式のものでなく、アンダーグラウンドである。
  • 1試合ごとにファイトマネーがでる。

一回戦のファイトマネーは200ポンドだった。

「200ポンド!?」

今までと比べて破格の報酬。
更に、勝ち上がればその度にファイトマネーはもらえるし、額も上がる。
しかも、優勝すれば賞金100万ポンドが手に入る。

喧嘩なら、男の子にだって勝つ自信はある。

「その大会…出ます!」

アンネットは即決した。

「ありがとうございます。これで役者が揃いました。試合開催日は追ってご連絡致します」

「あ、あの…」

アンネットは恥ずかしそうに切り出した。生活が厳しく、ファイトマネー200ポンドのうち100ポンドを前渡しでいただけないかと。

「これは失礼しました。100ポンドと言わず200ポンド全額お納めください」

「え!?私がもし、参加しなかったらどうするんですか?」

「それは絶対にあり得ない。あなたは必ず参加する。信じていますよ」

「ありがとうございます!必ず出場します!」

「そうそう、試合に参加するにあたって、通り名というか…異名をつけてもらいたいんだけど。『破壊神』なんてどうかな?」

「『破壊神アンネット』?私が、神を名乗るなんて…」

「いやいや、そんな深く考えなくていいんだ。試合を盛り上げるためのちょっとしたスパイスみたいなものだから」

しかし、悪くないネーミングだ。往年のキャラたちの多くは、過去の人気に支えられて不労所得を得ている。ここらでぶち壊さんばかりに暴れても良いだろう。

アンネットの誓い

兎にも角にも、200ポンドを得ることができ、これで春までは、いや、物価が元に戻れば来年1年は持つかもしれない。いずれにせよ十分な暮らしができる。クリスマスも年越しも、身の丈に合った贅沢ができる。

年の瀬の雪が降りしきる中、トレーニングを開始した。
春になってからは農作業の傍ら、格闘技の修練に励んだ。大斧一振りで巨木を切り倒すこともできるようになった。

世界名作劇場の放送は終了した。名劇シリーズは終わったのだ。
これからファンの人気を掴むためには、過去にあぐらをかいて、グッズ販売だけに頼ったりしていては詰んでしまうであろう。どんな形にせよ、SNSやサイトで露出を増やして知名度を上げ、新規ファンを増やしていく。往年のファンたちの記憶から消えないよう、努力していくしか無い。

栄光は実力で掴み取る。

トーナメントで優勝すれば、我が家だけでなく、ルシエンの家も…いや、村全体が活気づくはず。
ヒール役でもなんでも良い。とにかく、このトーナメントではなりふり構わずに存在感をアピールする。人気が出て有名になれば、動画配信、グッズ販売やレンダーも飾れるかもしれない。

どれだけ立派なヒロイン・ヒーローたちが登場するのか知らないが、この大会は完全なる実力主義。

過去の栄光にふんぞり返り、暖衣飽食した名劇連中に活を入れてやる。アンネットは誓った。

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