注意書き
この記事はキャラ崩壊、無茶苦茶な作り話です。世界名作劇場のキャラが改変されるのが嫌いな人は、すぐにブラウザを閉じるか、ブラウザバックしてください。
アンジェレッタとマリア先生の戦いだ!
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ウオーミングアップ
2日後はいよいよ2回戦。
早朝、アンジェレッタは日課のロードワークをこなしていた。試合2日前にロードワークなんて必要ないかもしれないけど、気分転換にはなる。軽く息が切れるか切れないかのところで、走るのをやめた。ベンチに腰掛けて水分補給をしていると、アルフレドがやってきた。
「おはよう、アンジェレッタ。走り込みかい?もうすぐ試合なんだから、あんまり無理しない方がいいんじゃないか?」
「大丈夫よ。軽く走っただけだから。走っている時の方が落ち着くの」
緊張しているのだろう。二回戦の相手は強敵マリア・クッチャラだ。体格差に加え、あの巨大な暗黒剣。素手で闘うアンジェレッタにとって、脅威以外の何物でもない。圧倒的に不利な戦いが予想される。
「アンジェレッタ…二回戦は、僕も君のセコンドに付く」
アルフレドはベンチに座り、左手でアンジェレッタの右手を強く握りながら言った。
「本当に!?嬉しいわ…あなたがセコンドについてくれたら、どれだけ心強いか…。もしかして、お祖母様に頼まれたの?」
アンジェレッタにハッとした顔で聞かれたので、アルフレドは一瞬戸惑った。
「イザベラ様…?いや、何も言われていないけど。今日の朝食の後、イザベラ様にも改めてお願いに上がるよ」
「嬉しいわ!アルフレド!本当にありがとう!」
朝食後、アルフレドはイザベラ夫人に、アンジェレッタのセコンドにつきたいと申し出た。もちろん、イザベラ夫人は快諾した。こちらからどうお願いしようかと、考えていたので、渡りに船であった。イザベラ夫人は、アルフレドにはセコンドだけでなく、試合前の調整、アンジェレッタへの施術もしてほしいと依頼した。アルフレドは快諾した。
『仲の良いお友達』でもあり、戦友でもあるアルフレドが一緒ならどれだけ心強いことか。アンジェレッタは、一回戦で敗れてしまったロミオにセコンドに付いてもらいたいとも思ったが、試合終了の翌日、ピーターパン、フローネ、マルコらとともに姿を消してしまった。どうやら一足先にソノーニョ村に帰ってしまったようだ。
アルフレドとは素手で軽めのスパーリングを行った。巨大な剣を持った相手との対戦経験はなく、今更対策を立てても付け焼き刃にすらならないため、組技のスパーリングに絞ったのだ。単純な力だけなら、アンジェレッタをはるかに上回るため、男子のアルフレドとのスパーリングはパワーファイター対策にもなる。
イザベラ夫人は2人のスパーリングを見守っていた。試合では服を着た状態で闘うため、二人共道着のようなものを着ていた。
打撃はなし。立ち技の状態で組み合いながら、組んず解れつする両者。組まれてしまうと、アンジェレッタは頭を下げられ組み負けてしまう。やはり男女でありパワー差は歴然だ。アルフレドが強引に組み敷くと、アンジェレッタは下になった。すかさずアルフレドが、アンジェレッタを抑えにかかる。柔道の横四方固めのような形になった。
「アルフレド!女の子だからって手加減しないで頂戴!左腕でアンジェレッタの首をがっちり抑えて、胸と胸を合わせて相手を制しなさい」
イザベラ夫人の的確なアドバイス。アルフレドは、アンジェレッタを固めながら、スッと縦四方固め(馬乗り状態)になった。アンジェッタはもがくけれども、アルフレドの力には抗えない。
「アンジェッタ!試合だったら、パンチを受けてしまうわよ!アルフレドとの距離を縮めて。両腕でアルフレドの頭を抱えるの!そう!ぎゅ~と、ぎゅ~と、抱きしめるのよ!」
『お祖母様…このトーナメントでマウントパンチをしてくる選手はあまりいないのに…』
不思議に思いながらも、首をガッチリとホールドしていると、アルフレドが密着を嫌って上体を起こそうとした瞬間、アンジェッタは思い切りブリッジをして、体勢を入れ替えた。胴に絡んでいるアルフレドの両足を外そうともがいている時も、
「アンジェッタ!アルフレドの足の付根あたりをゴリゴリ押して!太ももでもいいわ」
イザベラ夫人の指示を受けながら、2人はスパーリング。アンジェッタがアルフレドのタックルを潰し、上四方固めの態勢に入った。
「自分の胸で相手の顔をしっかり押さえつけて。足りないわ!もっと力を込めて!いえ、むしろ力よりも気持ちを込めて、ぎゅ~と押さえつけなさい!」
『奥様…。アドバイスが違う方向に』
執事であるチェルビオは「直接過ぎる」イザベラ夫人のアドバイスに思わず失笑してしまった。スパーリングをしている本人たちよりも、顔が紅潮し、顔も蒸気していた。アルフレドと孫娘との組んず解れつのスパーリングに夢中になっていた。
スパーリング終了。
「アンジェレッタは組技の技術も物凄く高いんだね。ついていくのがやっとだったよ」
「アルフレドこそ、とっても動きが速いし、やっぱり男ね。力が強いわ」
二人とも、サバサバしている。
『殿方と組み合ったら、ドキドキしているはずなのに…どうしてこの2人はこうも自然体なのか。肌と肌を合わせたら、お互い意識してしまうものなのに…』
イザベラ夫人は2人の仲が早く進展するようにと祈っており、いや、祈るどころか、色々と仕組んでいる。
2人がシャワーを浴びた後、イザベラ夫人はアルフレドにアンジェレッタの整体の施術をお願いした。
「肌の張りも良い。本当に良い筋肉だよ」
アルフレドは、アンジェレッタの状態を確かめながら、着実に施術を行っていた。
「次は脚の関節の可動域を広げるよ。膝靭帯も粘りがあって強い。これなら、少しぐらいのパワー差なら跳ね返せるよ」
アンジェレッタは目を閉じながら、アルフレドの施術に身を任せていた。背中、腰、太もも、ふくらはぎ、肩、腕、指、首。まんべんなくマッサージと指圧を行った。アルフレドは額から大汗をかいていた。
『アルフレド…どうしてそんなに真面目に施術をしているのよ!真面目にやってくれるのは良いのだけれど…。もっとふざけてもいいのよ!アンジェレッタをくすぐってもいいし…アンジェレッタもアンジェレッタね。別に触られていなくても「ちょっと変なところ触ったでしょ?」とか「エッチね…アルフレド!」とか言いなさいよ!「ご、ごめんアンジェレッタ…」なんてやっているうちに気持ちが盛り上がってくるものなのに…』
2人のふれあいをハラハラドキドキ見守っているのに、何も起こっていないので、イザベラ夫人は一人ヤキモキしていた。
「よし!完璧だ!アンジェレッタ!万全のできだよ」
「ありがとう、アルフレド!」
『「よし!」じゃない。イチャイチャしてほしいのに…』
体調も万全だ。お祖母様、執事のチェルビオ、それからアルフレドが付いている。試合は怖いけれど、勝つ自信はある!さあ、入場だ!
アンジェレッタ・モントバーニVSマリア・クッチャラ
「かつての恋人ロミオとともに黒い兄弟たちを率いて、モントバーニ邸に忍び込んだのは今や昔!一見おとなしいお嬢様だが、不屈の闘志を持っている超絶美少女!イザベラお祖母様の下に着いた時は、病気に冒されすでに満身創痍。お祖母様に拒絶されても、そこから立ち上がった!一回戦ではかつての恋人ロミオの声と同じセドリック・エロルを撃破。もう、過去にとらわれない!かつての恋人ロミオなんかにとらわれない!過去を断ち切った彼女の前には、眼前の敵しか見えない!お出かけドレスは闘いの羽衣!倒れる時はいつも前のめり!アンジェレッタ・モントバーニ!」
『やれやれ…ロミオ関連の煽りは、お祖母様の仕業ね…』
「おおっと!御覧ください!アンジェレッタ選手のセコンドに、アルフレド・マルティーニがついております!祖母と未来の夫がセコンドについてくれれば、これほど心強い味方は…」
Boooooo!!!
boo! boo!
「会場からは激しいブーイングです!アルフレドに恋人がいるなんて、絶対に認めない!不意打ちの文春砲にアルフレドの女性ファンたちが怒り出した!これはアンジェレッタ、戦いづらいぞ~!」
『お祖母様…仕込み過ぎです…』
険しい表情でセコンドと主に武舞台へ向かうアンジェレッタだった。
続きまして…マリア・クッチャラ選手の入場です!
「黒の修道服だが、武舞台で暴れているときはまるで黒装束を着た東洋の忍者さながら!一回戦では強敵『大きな天使ジャッキー』を屠り、2回戦へと駒を進めました!名劇主人公としては、ちょっと年増であるがゆえに、恋愛、結婚、出産と人生の節目節目を経て強くなった。様々な活劇で視聴者を楽しませてくれた!男を知っている!女の喜びを知っている…とにかく破天荒な女!青い果実と熟女のダブル・スタンダードを地で行く女!マリア・クッチャラ!!」
青コーナー、157cm、47kg…アンジェレッタ・モントバーニ!
赤コーナー、173cm、63kg…マリア・クッチャラ!
体重差16kg!
「何だよ!その体重差!」
体重差があっても、ヘビー級同士の闘いであれば、成立するかもしれない闘いだが、軽中量級選手でこの体重差はあまりにも危険だ。観客席からのブーイングが止まらない。
「解説のフランツさん(ふしぎな島のフローネ)、大変な事になってきましたねぇ」
「このトーナメントは10kg程度の体重差があっても、観客はそこまで気にしないはずなのですが、お客さんたちはみんなアンジェレッタびいきですからねぇ^^;これもやむない反応かと。ただ、マリア・クッチャラ選手になんの落ち度もないことを、解説としてはっきりと言わせていただきます」
アンネットとトムの対戦時のように体重差が倍近くある場合は、契約体重を設けることもあるが、今回契約体重はない。
「まあ、体重差に応じたルール規定もありますから、アンジェレッタ選手の反応を待ちましょう。観客の皆様、お鎮まりください!」
観客たちのブーイングが止んだ後、リングアナからようやくコールがあった。
『尚、この試合は世界名作劇場最大トーナメント無差別級規定において、両選手の体重差が12kg以上ありますが、攻撃選択権のある体重の軽いアンジェレッタ選手が、
四点ポジションからの攻撃を・・・・
認めたため!
通常の名劇最大トーナメントのルールに則って行われます!』
おおおおおお!!
観客たちは大歓声を上げて、アンジェレッタの勇気を称えた。
興奮しているもの、アンジェレッタの身を案じてショックを受ける客。反応は様々だ。
「お聞きください!天地が裂けんばかりの大歓声!体重差16kg。4点ポジション(この場合、両膝と両足のつま先がマットに触れている)からの顔面、頭部への蹴り、武器での攻撃を認めました。マリアと対峙しても全く怯んでいない!これだけでアンジェレッタを評価できます!」
「完全なる意思表示。アンジェレッタのプライドですね。見上げたものです」
『アンジェレッタ…いくらなんでも危険すぎるぞ』
アルフレドが不安そうに呟いたが、ゴングは鳴らされた。
第一ラウンド
川村万梨阿女史、ヘートヴィッヒのお声だ。くぅ…トラップ一家物語を忘れてしまっているのが悔やまれる。BGMもいい!これは何の曲だろう?全く知らないので曲名を知りたい。
「フロイラインマリア!よろしくお願いします!」
「体が大人に近づいても、まだまだ誰かに守られないと生きていけないでしょう?」
マリア先生…良いこと言うなぁ…。
アンジェレッタの敵として出会いたくなかったわ。
「ふふっ。お嬢さん、ロミオくんが居ないようだけど」
「ええ。ロミオはお先に帰国したようよ」
ロミオの名前を聞いたところで、眉一つ動かさない。セディ戦のときのように、動揺はしなかった。この大会に参加すればロミオに会えるという期待、かつて彼と過ごした日々を偲んでいたところ、一回戦でロミオの声とそっくりのセディとぶつかってしまったため、危うく不覚を取ってしまうところだった。
所詮、数年ぶりのクラス会で、元彼と会えるのではないかという期待感に似たようなものだ。ロミオにはビアンカが居るし、結婚もするそうだ。
気持ちをすっかり切り替えた。
『ヘートヴィッヒ…じゃなかった。アンジェレッタ・モントバーニ、一回戦とはまるで別人』
「始めぇ!」
アンジェレッタから先に仕掛けたが、躱され、無防備になったところを、大剣で薙ぎ払われてしまった。刃の部分で斬るというよりも、剣の側面を叩きつけたので鉄柱で叩かれたかのようだった。
脇腹を抑えながらも、すっくと立ち上がった。
「あの金髪の素敵な方は?新しい彼氏かしら?」
セコンドのアルフレドのことだ。
一瞬、アンジェレッタの動きが止まってしまった。アルフレドをそこまで意識してはいないし、仲の良い友達だ。親友だ。一緒にいると楽しいし安心できる。お祖母様は、私とアルフレドがもっと親密になって欲しいってのは、なんとなくわかっているけど…。恋人とかは…。
アンジェレッタは、一回戦で散々感情を揺さぶられたばかりだ。アルフレドは乙女心のゆらぎに敏感だった。一回戦のような試合運びはさせない。
「アンジェレッタ!この試合が終わったら、アイスクリームを食べに行こう!バスキン・ロビンス!アンジェレッタが好きなやつだよ!」
アンジェレッタが戸惑いを覚えた瞬間、アルフレドがすかさずフォローに入ってくれた。
吹っ切れた!
アンジェレッタは微笑み、反撃の態勢に入った。斧、片手剣のオーラを生み出し、連携技を面白いように決めていく!HPを3分の1まで減らした。
「そうだ!いいぞ!アンジェレッタ。防がれても良い!止まるな!」
『もう一発…!?』
アンジェレッタが下からの切り払いを放ったが、それは躱されてしまった。
『え?』
気づいた時は遅かった。大剣が振り下ろされ、体が床に叩きつけられていた。
あまりに暴力的で重い一撃。
だが、これでアンジェレッタも気合を入れ直したのだろう、立ち上がりざまの足払い。
槍、ラージシールドを生み出し、着実にマリア先生を追い詰めていく。更に片手剣二刀流での攻撃。目まぐるしく生み出される武器を見ているだけで、怯んでいるようにも見えるマリア先生。
『一撃、一撃入れば!』
大剣での一撃が入れば、流れを大きく変えることができる。自分には、圧倒的な破壊力がある。
苦し紛れに剣を振った。
当たった!
『しめた!これで形勢逆転…』
しかし、アンジェレッタはすでに、攻撃態勢に入っていた。
「堕っちろ!堕っちろ!堕っちろ!」
アンジェレッタ得意の突進だ。後ろは欄杆。逃げ場がない…!
KO!
第二ラウンド
余力は十分残っているものの、マリア先生の一撃の重さは半端ではなかった。
圧倒的な勝利のように見えるが、実は紙一重だった。9割勝利が確定したとしても、大剣の一撃で闘いの流れを一気に変えられてしまう力を持っていた。
はじめえ!
機先は制されたものの、くじけない!アンジェレッタダッシュへの態勢に入ったぁ!!
ここからの連続技が目にも止まらない!最後は槍でひと突き!!大柄なマリア先生を武舞台の端までぶっ飛ばした!
今回のアンジェレッタ姫の勇姿は過去一。闘いぶりがカッコいいのよ。武器の使い方と言い、身のこなしと言い、闘う天使。服のコーディネートと戦闘スタイルがここまでマッチするなんて。ミーラ監督にはひざまずくしかない。
アンジェレッタがマリア先生の襟首を掴んだぁ!
が、力任せに釣り手を切って脱出。
「やだ!この変態!」
ここから、流れが変わった。
大剣が3発当たっただけで、物凄くHPを削られた!
黒かった剣も白く光っているし。攻撃力が増しているのかな?
『アンジェレッタの様子が変だ。顔色も青いし、呼吸が荒すぎる』
アルフレドは、アンジェレッタが急に失速し始めたのに気づいた。アンジェレッタ自身は、それに気づいているのかわからない。
「イザベラ様、アンジェレッタの顔色がよくありません。発作はまだ時々起こるのですか?」
「いいえ。パリで手術をしてからは、すっかり良くなりました。発作は全くなくなったのに…」
となると、内臓へのダメージか?第一ラウンドのインターバルでは、息が随分上がっていたとは言え、体格差のある相手と戦えば疲れるのは当然。このままアンジェレッタが押し切ってくれれば良いのだが…。
マリア先生の激しい斬撃が、アンジェレッタを襲う!
これまでコツコツ削ってきたアンジェレッタの攻撃を帳消しにするかのような破壊力。
マリア先生が驚異的なのは、倒れている相手に対する大剣での一撃。無防備になったところを、上段から振り下ろされたらたまったものではない。
剣で斬り上げられ、宙を舞う!
あ!
姫のお出かけドレスが…千切れ飛んだ!
なんてことを…!これはマリア先生でもやり過ぎだ!
小さいマリアの服が弾け飛んだときと違い、場内は一気にブーイングの嵐!
あああ!
KO!!
姫…。゚(゚´Д`゚)゚。
「倒れたところに大剣が振り下ろされたぁ!まるでまな板の上の魚を叩き斬るかのようだあ!四点ポジションからの攻撃を認めてしまったのが仇となってしまったぁ!」
フランツはまさかの展開に大興奮。かれは数少ないマリア応援団だった。
マルティーニ流活殺術
自陣へ引き上げてきたアンジェレッタは、呼吸が荒く、顔も先程より青ざめていて苦しそうだ。でも、咳き込んでもおらず、発作のでている様子はない。チェルビオが傷口への応急処置を始めた。
アルフレドはアンジェレッタの顔をまじまじと見つめ、両手で頬、首筋、手首の脈をとった。
「アンジェレッタ、失礼するよ」
シャツをまくり上げ、腹部を見ると、水月のあたりが変色していた。
『やはりな…胃がやられている』
第一ラウンド、マリア先生の最初の剣による打撃。斬撃ではなかった。剣の側面でアンジェレッタの腹部に打ち込んだ技だ。「3年殺し」と言われる技だ。手加減したのかどうかはわからないが、3年殺しの出来損ないというか、決め損ねたのか。死に至ることはなさそうだが、臓器へのダメージは大きい。
「アンジェレッタ、ちょっとここにうつ伏せになってくれないか」
アルフレドはシャツをめくり、背骨を指でなぞり、指圧をはじめた。これではまるで整体だ。
「お嬢様は内蔵を痛めておいでです。なぜ今更背中を指圧するのですか!?脊椎は関係ないっ!」
執事のチェルビオは抗議の声をあげたが、アルフレドはお構いなしに指圧する。
「各椎骨と内蔵期間は密接な関係がある。西洋医学では患部のみを集中的に治そうとする。しかし、マルティーニの整体は患部に影響を与える椎骨を診る。胃が悪い場合でも、椎骨のどこかに歪みがある。椎骨を矯正するだけで痛みは緩和される」
アルフレドは、右拳を高く上げ、アンジェレッタの背中めがけて振り下ろそうとしている。右中指の第二関節を叩き込む、中高一本拳だ。
「おやめくだされ!」
チェルビオの制止など構ってはいられない。
鈍い音とともに、アンジェレッタの脊椎にアルフレドの拳が振り下ろされた。
「ううっ…!」
アンジェレッタは苦悶の声を上げたが、それも一瞬だった。表情はすぐに落ち着いた。
「なんてことをするんだぁ!」
チェルビオはアルフレドの襟首を掴んで、鬼のような形相で睨みつけている。
「武道は三術を講ず…『技』『医』『芸』術なり…人体を熟知しているのは医者だけではないのです」
「何を言っているんだぁ!?よくもお嬢様をっ…!」
「殺法、すなわち活法なり!!!」
アルフレドの一喝で、チェルビオは腰を抜かした。マルティーニ流活殺術の使い手であり、この最大トーナメントにも出場できるほどの実力者に至近距離から怒鳴られては、腰を抜かすのも無理はない。
「う~ん…」
今の怒鳴り声で、アンジェレッタは目を覚ました。体中は痛いし、疲れは残っているものの、気分だけは清々しかった。
アルフレドはアンジェレッタをたすけおこし、椅子に座らせた。
「すまない、アンジェレッタ。こうするしかなかったんだ。背中は痛むかい?」
「ううん。全然。アルフレドがセコンドについてくれてよかったわ。居なかったら次のラウンドは闘うことすらできなかったかも」
アルフレドはアンジェレッタを抱きしめ、頬に軽くキスをした。
「覚えているね?この試合が終わったらデートだ」
「バスキン・ロビンス…31…」
「そうだよ。アイスを5段重ねにして、一番上はポッピングシャワーだろ?」
キスのせいなのか、体調がよくなったせいなのかわからないが、とにかくアンジェレッタの顔は紅潮している。
『ナイスよ…!アルフレド、グッジョブ!!怪我の功名!』
イザベラ夫人の顔は紅潮どころか、蒸気していた。
「セコンドアウッ!」
最終ラウンド
『おや…?「あれ」が効いていたはずなのに…?どうやって治したのかしら?一日苦しまなきゃ治らないはず。アルフレドが治したのか…。まあいいわ。小細工なしで勝負してあげる。それでも、スピードはいくぶん落ちているはずだけど』
しかし、アンジェレッタの動きは早かった。
『えっ…!?』
アッパー気味に切り払った。
「すごい!アンジェレッタ選手が、自分より大柄のマリア先生を上空へ舞い上げたぁ!」
落ちてきたところを、ひと突き!
コンボが決まる。
『ぬぅ…』
大剣を振りかぶり、攻撃をしようと構えた瞬間、アンジェレッタに奥襟を掴まれた。
『速い!』
と、感じた瞬間、マリア先生は空中に放り投げられていた。槍、剣、斧が下からマリア先生を襲う!
「な、なんだぁ!?この技は!?アンジェレッタ選手の新奥義かぁ!?マリア先生が危ない!」
解説のフランツはマリア先生の身を案じてばかりだ。
『このスピード、そして、テクニック!付け入る隙がない!』
一回戦のジャッキーも強敵であったが、これほど追い詰められたことはなかった。
落下してからも、攻撃に移ろうとするアンジェレッタ。容赦がない。第二ラウンドとは動きのキレが全く違う。
「調子に乗るなぁ!!」
大剣での渾身の一撃。アンジェレッタに命中はしたが、倒れるほどではない。
『次は斧かっ!早すぎる。反応速度が早すぎてついてけなくなっている!』
なんとしても一撃をあてなければ、焦るマリア先生だが、防戦一方。いや、正確には攻撃を防げていない。
アンジェレッタ、下から左右のワンツー!これも入った!
「マリア先生、風前の灯だ!反撃のすべは残されていないのか!?」
下馬評ではマリア先生有利だったが、アンジェレッタの波状攻撃には為す術もない。体重差を見事に跳ね返す闘いぶりに会場は沸き立っていた。
「堕っちろ!堕っちろ!堕っちろ!」
KO!!
しゃああ!
強敵マリア先生を完封!HPを大量に残したままの勝利!
「勝者、アンジェレッタ・モントバーニ!!」
高らかに勝ち名乗りを受けた後、アンジェレッタは、マリア先生の元へき抱擁。お互いに健闘をたたえあった。
「完敗だわ、アンジェレッタ。次も頑張って…」
「ありがとうございます。マリアさん、とても良い戦いができました」
観客たちは大興奮。
「アーンージェッ!アーンージェッ!アーンージェッ!」
「マーリーアッ!マーリーアッ!マーリーアッ!」
「二人共勇猛果敢な闘いぶりでした。マリア選手は一撃必殺を得意とするパワーファイター、方や、アンジェレッタ選手は連撃必倒の変則的かつ素早い攻撃が得意の選手です!お聞きください!大熱戦を演じた2人にスタンディング・オベーションで讃えられています!」
「マリア!もう一度、お前の闘いが見たいんだぁ!」
解説のフランツも叫ぶ。
2人の闘いは観客の心を鷲掴みにした。
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