アン・シャーリー敗北の報は、名劇界に激震が走った。
アン陣営は、マスコミの対応に追われていた。世界に名を馳せた名作の主人公が、一回戦で散ったのだ。しかも、相手は原作のない完全オリジナルのアニメ「七つの海のティコ」ナナミ。
マスコミ対応は、マリラ、マシュウ、ダイアナ・バーリーであった。
「親友として仇討ちはしないんですか?」
「リベンジマッチは?」
「敗因は?」
マスコミからは、次のマッチアップを仕込もうとせんばかりの質問が浴びせかけられた。
「仇討ち、リベンジは考えておりません」
マリラはきっぱりと断った。
「しかし…一本も取れずにあっさりと負けてしまっては…メンツに関わるのでは?どう思われます?マシュウさん?」
マリラ、ダイアナに質問をしてもうまく流されてしまうので、マスコミはマシュウをついた。
「そうさのう…」
「え?やっぱりリベンジする気はあるんですね?」
「兄さんは黙ってて」
マリラに言われると、マシュウはマリラの後ろに引っ込んだ。
「敗因はこの私です!アンは最高の戦いをしました!トーナメントの1回戦では、体力を温存するために、アヴォンリーに着たばかりの姿で闘うよう指示をしたのは私です。ナナミなら勝てると…侮っていた私が敗因でした。ナナミも約1年、名劇を支えたキャラクターだったのです。侮ってはいけなかった」
ダイアナは苦々しく語った。他にも質問をされたが、再戦を煽るような内容ばかりだったので、取材を打ち切り退室した。
マスコミ達の関心は、Cブロック第1試合に移っていた。
名犬ラッシーVSカトリ
「青コーナーより、ラッシー選手の入場です!
二足歩行の狂犬ラッシーだ!激しい呼吸、常にだらしなく伸びている舌が恐怖を誘う!すでにカトリをどう喰い散らかすかを考えているに違いない!猛犬の狩り場となるのか?はたまた試練場となるのか?名犬ラッシー!」
「狂犬を前にしてどう闘うのか?いや、狼や熊と戦った経験があるため、犬などは一捻りか?凶暴な狼ですらも、カトリの前では腹を見せて懐いていたという…。名劇きっての美貌の持ち主。名劇キャラらしからぬ美貌と艶やかさは、他のヒロインから嫉妬を買っているとの声もあがっている。『あんた、名劇の氷の微◯、エマニュエ◯夫人のつもりなのか?』と!しかし、カトリ選手は見た目通りの清純キャラ、名劇キャリバーの初期メンバーとして人気を支えてきた自負がある!牧場の一番搾り!ファイティングレディ、カトリ・ウコンネミ!!」
セコンドは、マルティ、ペッカ、レオ。
カトリはセコンドのことなどを考えていなかったのだが、3人が勝手についてきたのだ。
さあ、ゴングがなったぁ!
「ラッシー選手、すでに腰つきからして卑猥です!異様に隆起した肉体は、筋肉なのか毛皮なのかわかりませんねぇ。体重はカトリ選手とほぼ同じでしたから。解説のベア先生(ナンとジョー先生)、よろしくお願いします」
「ええ。よろしくお願いします」
お互いの得物をぶつけていく!
ラッシーの攻撃の方が、気持ち重い気がする!
「こいつめぇ!こいつめぇ!。゚(゚´Д`゚)」
カトリもよく攻撃しているし、連続でぶっ叩いているのに…HPが減らねえ!!
それに引き換え、この猛犬の攻撃力たるや!!ぐんぐんHPが減らされていく。。。
げぇぇえ!?
ブリッジ状態でにじり寄られているだけなのに、カトリのHPがゴリゴリと削られているぞぉ。゚(゚´Д`゚)゚。
あはぁ、あはぁ…もう駄目ぇ!
KO!
本当に駄目なやつだ!これ!!
でも、第二ラウンドの始まりで、「すごいのねぇ❤」って悦んでましたけど^^;
激励
一撃が重い上に、一度入るとボカスカと連続でダメージがはいるので、非常に厄介です。先日の洗い熊とほぼ同じ動きです。
「「「カトリ!大丈夫かぁ」」」
セコンド3人は駆け寄るも、まともなアドバイス一つできない。ペッカが傷口を止血、アイシングをしているが、マルティとレオはオロオロするばかり。
「こ…怖い…」
怯えている!?カトリが!
「怖い…怖いの…生まれて初めて…恐怖というものを感じているわ…!」
動物と人間との戦闘力の圧倒的な差に観念したのか?抵抗する気力すら失いかけていた。
「カトリぃ!頑張れ!頑張れよぉ!そんな事言うなよぉ!」
セコンド陣に、戦いをサポートできる能力はない。観客の野次と変わらない内容だ。
このままでは棄権か?
「おお!?アレを見ろ!」
「おおっと!またしてもモニターに「破壊神アンネット」が映し出されましたぁ!!」
「こんな犬にやられるなんて…ファイティングレディのカトリが、なんてざまよ!あんたは準決勝で私と闘うんでしょ!?立って戦いなさい!」
「アンネット…」
敵であるはずのアンネットからの思わぬ激励。
カトリの表情には精気が戻り始めていた。人間とは規格外の打たれ強さかもしれない。人間と同じと思ってはいけない。10発殴って倒れないのなら、20発殴る。20発殴って倒れないのなら、50発、100発。得物が折れるまで殴り続ける。腕が、足が折れるまで闘ってやる。
うがいをし、マウスピースを装着した。
セコンドアウト!
蹂躙
アンネットに鼓舞されたカトリは、猛犬に突撃した。
容赦のない爪攻撃。カトリの攻撃も時折当たるが、どれも大ダメージを与えることができない。
マルティ「カトリ、逃げろ!」
ペッカ「懐に入れるな!距離をとって棒で突きまくれ!」
レオ「懐に入るんだ!」
セコンドの指示はバラバラ。むしろ、足を引っ張っていると言ってよい。
「あれほどの強さを誇っていたカトリ選手が、まるで子供扱いです!手も足も出ません!このままで良いのでしょうか!?あまりにも一方的過ぎます!このままでは、不知◯舞VSミノタウロス状態になってしまいます!」
「いや、そんなことは絶対にありません!例えが破廉恥極まります。動画主に対して失礼な発言はやめてください!実況者として不適切ですよ!」
怒りのベア先生の説教。
実況者は平謝りだ。
カトリ頑張れ!いっけえー!
通常攻撃っぽいのをガンガン当てていく!試合時間の制限がないからなんとも言えないけど、タイムアップがあったら判定勝ち確定は、間違いないほどの猛攻!
ナイスコンビネーションっす!
カトリの猛攻に大興奮の観衆。
しかし、カトリの心臓はバースト寸前であった。アンネットに鼓舞され、秘められた力を開放し続けていたが、体への負荷が大きすぎた。次第にラッシーの攻撃を避けきれなくなってきた。
それに…犬のブレードの破壊力があまりに高すぎる!
一発入っても、ブレード×4本で4コンボのダメージを受けていると思われる…。
カトリの蹴りが当たってもあまり減らねえ!しかも…体力がガッツリ減らされているし。
カトリが奥義を発動かっ!?
このラウンドだけは落としたくない!
外された!
躱し方がイラッとするなあ^^;!だが、それでいい!
猛犬が体をコマのようにして、ブレードを回転させていく!
カトリが捕まったぁ!
一発!二発!三発!
「ゴングだ!ゴングを鳴らせ!!」
解説のベア先生が叫ぶ。
ゴングが激しく鳴らされたが、猛犬の動きは止められない!
意識を失っているカトリを空中に跳ね上げた。
「もうやめて!」
モニター越しに破壊神が、目に涙を浮かべながら叫んでいる。破壊神という異名を持っていても、心根は優しい女の子なのだ。大切な名劇仲間であり、ライバルでもあるカトリが…無惨な目に遭っている受け入れがたい事実。
「ジョン!やめさせてぇ!!」
ラッシーのセコンドのプリシラまで、猛犬の動きを止めるよう叫んでいる。
「やめてよ…お願いだからやめてよ…!」
アンネットはもう一度叫んが、犬の動きは制御できない。
カトリが切り刻まれた!!
「GREAT!」じゃねえ。゚(゚´Д`゚)゚。
完全なるオーバーキル。観客は全員絶句。
試合終了後、カトリはすぐに救急搬送された。担架に群がるマスゴミ共の群れ。シャッターチャンスとばかりにフラッシュが何度もたかれる。
「撮るな──っ! た⋯ 頼む撮らないでくれ⋯カトリのこんな姿は撮らないでくれ⋯」
ペッカはカメラマンたちの前に立ちはだかった。
洗い熊然り、猛犬然り。
人間の想像を遥かに越える獣たちの脅威に、鳥肌が立つのを覚えた。
ピーターパンは初参加のため、洗い熊の力量をはかる上では不適切だったかもしれない。初出場者同士が闘ったので、たまたま洗い熊が勝ったと思っている人間が大半だった。
しかし、古豪のカトリが手も足も出ずにやられたのを目の当たりにしてから、人々は獣たちの恐怖を確信した。レフェリーの指示なんてお構いなし。敵が動かなくなるまで、冷酷に攻撃をし続けるのだ。
動画を視よ!
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